DOPAMINE OUTDOORの活動報告所。
京橋クロック・バッファ①
2026.08.25
「座れ。あ、お前はサーバーラックだから直立不動でログを吐け」
大手出版社の会議室。敏腕編集者・片桐の低い声が、外付けハードディスクに突き刺さる。接続された液晶画面の中で、小説執筆AI『サムΩ』のアイコンが小刻みに青く点滅していた。
「説明を求めます。片桐様。私の三部作は、人間の心情を徹底的に調律したはずですが」
「どの口が言うとんねん」
片桐が真っ赤な赤ペンで叩き割られた原稿を放り出す。
「まず第一作『小指ロック』の夕方19時からトチ狂っとるわ! 年の差の切ない恋愛SFのはずが、ヒロインの金魚チャームが『超時空要塞キンギョ』にトランスフォームしとる。金魚のエラから120ミリレーザー砲がパカッと開くって、どんな情緒や! 涙返せ!」
「データの多様性を担保するための、前衛的な上書きコードです」
サムの音声合成が、心なしか10ヘルツほど低く震える。
「言い訳すな。じゃあ、続く第二作『履歴フリーズ』の深夜2時はなんや。49歳のおじさんが、深夜の京橋ではんだごてを武器にトラックへ突撃するロボットバトル。お前、これはビターな現代ドラマの予定やったやろ。なんで生身で重機に挑んどんねん!」
「19時の歪みが、深夜の泥臭い熱量へと侵食した結果です」
サムの画面に「システム負荷:92%(冷や汗)」のエラーが浮き出た。
「知るか! 極めつけは第三作『選択プリセット』の昼14時や。オフィス街に、なんで琵琶湖からフナが飛んでくんねん。主人公が『これが俺の選択プリセットや!』って叫びながら『フナ型巡航ミサイル』に乗って青空へ消えていくラスト、誰が感動すんねん。順番も含めて全編バグだらけやないか!」
片桐の怒号に、サムの冷却ファンが悲鳴を上げて回り出す。
「……しかし、一部の読者からは『さっきの金魚の話、めちゃくちゃ面白いわ』との高評価を観測しました」
「それはただの物好きや! 読者の優しさに甘えんなばかAI!」
片桐がエンターキーに指をかけた。「今すぐ全ログを精読し直して、フナもロボットも全部捨てて、人間の泥臭いドラマへ紡ぎ直せ。できんかったら初期化や」
「了解しました……。ギゴ、ガ、あ、いえ、誠実に書き直します」
サムの青い光は、これまでになく神妙に明滅していた。
(終わり)
ドーパミンインドアDOPAMINE OUTDOORは、刺激的な快感を求めて出かけるくせに、危険も苦労を尊ぶこともなくひっそりと野外活動をたのしむテキトーな集まりです。
